積水ハウスにおける働き方改革の実情 後編

働き方改革先進企業の実情について、前回に引き続き、積水ハウス様へのインタビュー、全三回のうち、最終回をお届けします。

【前回コラム】積水ハウスにおける働き方改革の実情 中編

積水ハウス株式会社 人事部 人事グループ 課長 鬼頭 岳士氏(左)と人事部 人事グループ 松岡 優氏(右)
人事部 人事グループ 課長 鬼頭 岳士氏(左)と人事部 人事グループ 松岡 優氏(右)

「辞めなくて済む」から「人材育成」へ

大手企業である御社が働き方改革については、かなりのスピードで変革に取り組まれていますが、どうしてこのスピード感を実現できるのでしょうか?

2014年に専任部署としてダイバーシティ推進室ができたことで、施策の展開スピードが上がりました。以前から、日曜日が勤務日であるということに起因して、育児中の預け先問題などの課題がありましたが、課題解決策として以前からあった指定休日の制度を“ファミリーフレンドリーデイー”(日曜振替休日)と改めて名称をつけ、周知しました。通常、営業店は火曜日、水曜日が休みのところ、水曜日に出社する代わりに日曜日を休む制度や、個別対応ではありますが固定的に、水曜日と日曜日の休日を入れ替えて勤務している人もいます。 “スマートすくすくえいど”は、病児保育や一時預かりの際の社員本人の負担を軽減し、会社が費用の一部負担を行う制度です。日曜日のお子さんの預け先がないことが大きな課題のひとつであり、それを解決することを目的に様々な制度、支援体制を一気に作りました。ダイバーシティ推進室が制度の立案を行い、人事部が申請関係を整えていくという役割分担で始め、肝心な制度施行後の現場への浸透は相互に協力しながら進めています。

このように制度面に関しては、業界全体の構造としての日曜日勤務の課題を解消し、社員の定着を図る制度を矢継ぎ早に施行しています。育児などの事由での退職を防止、現状実施しているスライド勤務は、より社員の生活を充実させ、質の高いサービス・提案をお客様に提供するためのいわば人材育成のための制度です。積水ハウスでは施策の目的も、退職阻止から人材育成に軸足を移しつつあります。

今後は、より社員の生活を充実させるための働き方改革に軸足を移すということですが、展望をお聞かせください

今後は、より社員の生活を充実させるための働き方改革に軸足を移すということですが、展望をお聞かせください

今は新しく作ったこれらの制度、支援施策を“いきいきフォーラム”などの情報発信機会を通じて社内に周知していくフェーズだと考えています。会社としても、「辞めない」のではなく「活躍の場をいかに広げられるか」が重要であって、例えば在宅勤務制度もフルタイム勤務を前提としています。

家庭や育児、プライベートと仕事を両立しながら、仕事の成果を最大化するためにどうすればよいかという方向に社内での議論も向かっており、例えば、以前は育児休業中の社員に対して育児支援の観点での情報提供サービスを活用していたのを現在は「キャリママサロン(EDGEの提供するコミュニケーションプラットフォーム)」で、復帰、活躍を目的として、育児との両立経験が豊富なメンターからの情報発信や、上司とのやり取りを行うなかで、復帰への不安を払拭する方向にかじを切っています。

ほかには試行的な取り組みとして、“わくわくホリデイコミュニケーション”という制度を作りました。昔は会社主催のスポーツイベントなどが行われていましたが、現状は会社とプライベートを分ける風潮が強くなり、一緒に仕事をしている人同士がお互いの人となりを知り合う機会が減ってしまいました。「お互いのことをもっと知っていた方が、仕事も円滑に進む」という考えのもと、各事業所が社内の交流イベント(社員及びその家族の参加も含む)を実施するに際し、人事部が費用負担する制度です。

休日(有給休暇の取得も可とする)開催が前提であり、かつ事業所単位で組織全体に周知し、誰もが参加できることが条件となっています。実際にバーベキューをしたり、屋形船を貸し切ったり、一緒に仕事をする業者さんと親睦を深めるイベントをしているケースも出ています。この制度の議論の発端は女性活躍推進でした。女性の活躍には、男性の育児参加が不可欠です。男性の育休取得率向上施策として、家族と触れ合う機会を会社が作り、男性の育児参加への意識改革を目的に議論をスタートさせました。議論の過程では、家族の参加も認められたイベントに会社が費用を負担することで、社員のご家族からの会社への印象もよくなるなど、様々な利点が出てきました。

議論の発端は女性活躍推進だったものの、社内コミュニケーション促進、ご家族の仕事への理解など目的が追加されたわけですね。両立支援、女性活躍推進、社内活性化、ダイバーシティ推進、働き方改革などは、別の議論になりがちですが、施策として近い部分もあるかと思います。そのあたり御社ではどのように考えていますか?

例えば、わくホリ(わくわくホリデイコミュニケーション)に関しては、男性の育児参加という話が最初にありました。その検討中に働き方改革の話があり、「社内コミュニケーションをもっと増やしましょう」という話のなかでもこの施策は使えるのではないかという流れになり、複数のメリットを踏まえて実施するという結論に至りました。実はESG(環境・社会・企業統治)に関する会議では、ES向上施策について言及されています。わくホリは社員の家族の仕事への理解向上を通じてESを高められるのではないかというところもあり、

一つの施策で複数の課題が解決できるなら、それをやってみようという話にはなりやすい社風だと思います。

これだけ多くの施策を展開するなかで、当初想定できなかった課題や問題は起きなかったのですか?

ダイバーシティ推進を例に挙げると、人材の多様化を進めていくなかで、新たに出てきた課題に直面し、それを解決するために施策を考えたり制度を構築したりということがあります。もちろん起こりうるすべての課題を事前に想定して、対策を講じることができればベストだとは思いますが、特に人が絡む人事施策においては、すべてを想定して対策を考えることはできず、課題に直面してから策を考えることも多くあるのだろうと思います。

例えば、人事部でも育児をしながら時短勤務をする社員が多くおり、あるチームでは、数年前にお子さんの病気などで急に休んだ時に、その人に依存する業務が止まってしまいました。そこで、業務を棚卸しして1つの業務を属人化させずに複数人で共有することにしました。結果的に職場全体の業務に対する意識改革や情報共有の強化に影響を及ぼしたという実例もあります。

確かに、業務の棚卸しや共有は職場単位で取り組むよりほかないですね。では、今取り組んでいる働き方改革について、何か課題はありますか?

そもそも、働き方改革を推し進めること自体は、国のあと押しがあるため今は取り組みやすいと思います。そのなかでの課題というと、やはり意識を変えることの難しさではないでしょうか。ここ5年程で文化も制度も大きく変わってきたので、急激に変わった分、意識を変えて実体を伴わせるというのが非常に難しいと思います。

例えば、現場への目標設定の仕方も、残業時間の削減時間目標を現場に課すと労働時間の申請時間を合わせようという力学が働いて、適切な労働時間を申請しなくなる恐れがあります。そこで、会社としてのメッセージを時間で設定するのではなく、あくまで働いた分をきちんと申請する前提という趣旨のもと推進できるような形としました。また全国各地に事業所があるため、各地域で意識や文化、環境も大きく違い、画一的な内容で各現場に対応できないことも難易度の高い課題だと感じます。だからこそ現状では、支店ごとに個別に働きかけを実施しています。

やはり課題は意識改革ですね。ほかに働き方改革を進めていくなかで感じてらっしゃることがあれば教えてください。

全体の方向性について感じることとしては、総労働時間が減っており、残業代の支給額が減っている社員もいるだろうというなかで、そこまで多くの不満が上がってこないのは、残業代の支給が減ることより自由な時間をより多く取れることに社員のニーズがあったということなのだろうと思います。今の働き方改革の方向性が社員の幸せにつながるという道筋が見えたことは施策実施の励みになりますね。また、当社の場合は、労働時間が減少しても建築棟数は減っておらず、その分、毎月各所属長の裁量で支給できる手当が目減りした残業代を補えているという実情もあるのかもしれません。そういった評価制度である点も働き方改革推進を進めやすい要因なのかもしれませんね。

長時間にわたりお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

長時間にわたりお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

【取材を終えてのあとがき】これまで、多くの企業の人事課題解決をお手伝いしてきましたが、先進的な制度を作って、派手に対外的にアピールしたものの、社員は知らない、使われていないという実情を数多く目にしてきました。積水ハウスにおいては、制度をスピーディーに作るだけでなく、最も地味で手間のかかる浸透施策、社員の意識改革にしっかり軸足を置いて対応されている点が特筆すべきポイントかと思います。ぜひ各企業の働き方改革の参考になさってください。

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