「働き方改革」という言葉は一般的になりましたが、企業としての取り組み、狙い、課題など、実態について気になっている方も多いのではないでしょうか。EDGE代表の佐原が日経BP「ヒューマンキャピタル」の連載にて、エアリーダイバーシティのお客様でもある積水ハウス株式会社様に、働き方改革の狙いと実情を伺ってきました。
人事部 人事グループ 課長 鬼頭 岳士氏(左)と人事部 人事グループ 松岡 優氏(右)
働き方の柔軟性を高める制度を次々と打ち出されていますが、狙いはなんですか?
例えば、有給休暇の取得率向上を目的として、“スマートホリデイ”という施策を2016年に導入しました。本来取得理由を申告する必要のない有給休暇にあえて名前を付け(自分磨き休暇、ボランティア休暇、子ども休暇、孫休暇、親孝行休暇、アニバーサリー休暇、ヘルスケア休暇の7つ)、自分の趣味のためや子どもと過ごす時間を作る、親と旅行に行く、など、様々な理由で有給休暇を取ってもよいということを社員に認識してもらい、休暇を取りやすくすることが狙いです。
また、社内掲示用のポスターにもランニング中の人のイメージを掲載し、自分の健康増進のために休暇を取るということも会社が奨励していると周知しました。さらにはこれをきっかけにコミュニケーションにつながる副次効果も生まれました。導入後は有給休暇の取得率が向上しました(導入前後比2.2%上昇)。当社では6、7月をダイバーシティ月間と定めており、社内での情報発信に力を入れ、全社的にイベントを開催しています。そのなかでも「スマートホリデイの取得を促進しよう!」というキャンペーンを実施し、成果が出始めています。
なぜ有給休暇の取得率向上を優先課題に置いたのでしょうか?
私たちは、住宅メーカーとしてお客様に生活提案をする。その提案に価値があってこそお客様に選んで頂けると考えています。有給休暇を使って自分の時間を持ち、自身が価値観の幅を広げることで、提案の価値を高め、幅を広げられるという考えです。一方で住宅業界特有の課題もあり、戸建て営業の場合、お客様との打ち合わせが夜や土曜日、日曜日に入ることが多く、夜遅くまで長時間労働をすることが前提でした。以前は、健康への影響や離職につながるなどのデメリットも多く、人手不足が深刻になる昨今、採用も難しいなかで離職が続くと事業が立ち行かなくなるという危機感もありました。
御社は社外からの評価も高く、先進企業のイメージがありますが、住宅業界特有の課題をどう打破したのでしょうか?
最近では、なでしこ銘柄に選定され、就職人気企業ランキングの順位が上がるなど、社外からご評価いただくことも増えてきました。一方、社内の意識としては、引き続き有給休暇を取りづらいという声があることも事実です。しかし実際に取得してみると当初想定していたよりも有給休暇を取得することの壁は高くなかった。取得してよかった。という声が寄せられています。
休みを取れる文化作りには、今後も継続して意識を変えていく必要があると考えています。意識改革については、経営トップも社内誌や職責者が参加する大規模の会議など、ことあるごとに「働き方改革」を言い続けており、ここ数年で社内の意識改革は確実に前に進んできています。ダイバーシティ月間を作り、集中的にこのテーマに目を向けてもらう期間を設けるなど、継続的に伝え続けるということが重要です。
継続的に言い続ける、以外に工夫されている点はありますか?
働き方改革を実現するために、ここ5年ほどはスピード感を持って制度の新設を行ってきました。会社として働き方改革に本気で注力していると、現場は見ているのではないかと思います。各支店に対しては、現在、人事部が直接聞き取りや働きかけを行っています。以前は、マンパワーの問題もあり、営業本部単位で見ていました。より現場単位で働きかけを行うようになったのも、人事部の本気度の表れだと映っているのではないでしょうか。
現場も会社の本気度を感じているわけですね。ここまで本気で取り組む理由はズバリ何なんでしょうか?
以前は、恒常的な長時間労働と離職率の高さを業界の常識として、割り切っていた部分もありました。しかし、今では少子高齢化に歯止めがきかず、優秀人材の採用が難しくなるなかで、これから入社してくる方が定着し、活躍してくれる土台作りが必須だと考えています。また、それらの施策は今後入社してくる方だけでなく、既存の社員にとっても、気持ちよく長く働いてもらうことにつながるものだと考えています。こうした考え方が徐々に浸透して社員の意識が変われば、業界特有の課題を解決できるのではないでしょうか。
積水ハウスにおける働き方改革の実情 中編へ続く